手当を含めた残業代の計算は複雑です。
基本給だけでなく、手当の一部も残業代の計算へ入れなければなりません。計算に入れるべき手当が抜けていれば、毎月の残業代が本来より少なくなっている可能性があります。
給与明細に手当がある方は、一度、残業代を計算し直してみるのがおすすめです。
私も以前、会社から「過去の給与計算に誤りがあった」と連絡を受け、あとから差額を支払ってもらったことがあります。間違いにはまったく気づいておらず、驚きました。
給与計算も人が行うものなので、間違いが起きることはあります。まずは給与明細の手当と残業時間を確認し、自分でも計算してみましょう。
残業代の計算から除外できる手当などは7種類
月給制の残業代は、基本給と、計算へ入る手当を合計した金額から、1時間あたりの賃金を出して計算します。
厚生労働省が、割増賃金の計算から除外できるものとして挙げているのは、次の7種類です。括弧内には、除外できるか判断する目安を添えています。
- 家族手当(扶養家族の人数などに応じて支給)
- 通勤手当(実際の通勤距離や費用に応じて支給)
- 別居手当(家族との別居に伴う費用などに応じて支給)
- 子女教育手当(子どもの教育にかかる事情や費用などに応じて支給)
- 住宅手当(実際の住宅費などに応じて支給)
- 臨時に支払われた賃金(慶弔見舞金など、その都度支給)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など、1か月を超える間隔で支給)
役職手当、資格手当、職務手当など、ここにない手当は原則として計算へ入れます。
最初の5種類は、従業員ごとの生活上の事情や実際の費用に応じて支払われる手当です。残りの2種類は、毎月の通常の賃金とは性質や支給時期が異なります。
ただし、手当の名前だけでは判断できません。家族の人数や実際の費用に関係なく全員へ一律に支給されている場合などは、同じ名前でも残業代の計算へ入れることがあります。
大切なのは、手当の名前ではなく、何を基準に金額が決まっているかを見ることです。
詳しい見分け方は、別記事の「この手当は残業代の計算に入る?」で紹介する予定です。
給与明細の例で確認してみる
次のような給与明細だったとします。
- 基本給250,000円
- 資格手当10,000円
- 住宅手当15,000円
- 通勤手当8,000円
- 時間外手当(残業代)30,000円
この例では、資格手当は除外できる7種類に当てはまらないため、残業代の計算へ入れます。
住宅手当は、住宅にかかった費用に応じて支払われるものではなく、対象者へ一律に15,000円が支給されているものとします。そのため、今回は計算へ入れます。
一方、通勤手当は、実際の通勤費に応じて支払われているものとして、今回は計算へ入れません。
時間外手当とは、給与明細で残業代に使われることがある項目名です。すでに残業代として支払われている金額なので、基本給や手当には足しません。
今回、残業代の計算に使う金額は次のとおりです。
| 基本給 | 250,000円 | |
| + | 資格手当 | 10,000円 |
| + | 住宅手当 | 15,000円 |
| 計算に使う合計 | 275,000円 |
時給計算ツールへ入力して比べてみる
手当を入れなかった場合と、計算へ入れる手当25,000円を加えた場合で、残業代がどのくらい変わるのかを時給計算ツールで比べてみます。
次の条件は、どちらの計算も同じです。
- 基本給250,000円
- 1か月の平均所定労働時間165時間
- 法定時間外の残業時間20時間
「1か月の平均所定労働時間」は、残業を除いた、会社で決められた1年間の勤務時間を12か月で割った時間です。「法定時間外」は、原則として1日8時間・週40時間を超えて働いた時間を指します。
1回目は「割増賃金の計算に含める手当」を0円、2回目は25,000円にして計算します。
結果は、次のようになりました。
- 基本給だけで計算約37,879円
- 手当25,000円を加えて計算約41,667円
- 1か月の差約3,788円
これは、月20時間残業した場合の差です。残業時間が多い人ほど、計算へ入っていない手当による差も大きくなります。
今回の条件で、手当を含めて計算した時給は約1,667円。約27時間働いたときの賃金に相当します。
毎月20時間の残業が1年間続いたと仮定した参考値です。実際の差は、勤務条件や残業時間によって変わります。
残業時間の集計期間や、会社で使っている1か月の平均所定労働時間、法定時間内の残業、深夜・休日労働、変形労働時間制などによっても計算結果は変わります。変形労働時間制とは、一定期間の中で、日や週によって決められた勤務時間が変わる制度です。
ツールの結果は、会社の計算方法を確認するきっかけとして使ってください。
固定残業代がある場合
給与明細や雇用契約書に固定残業代が記載されている場合は、何時間分・いくら・どの残業を対象としているのかを確認します。
固定残業代は、実際の残業が少ない月や、残業をしなかった月でも、契約で決められた金額が支払われる仕組みです。一方、法律に沿って計算した割増賃金が固定残業代を上回った場合は、会社は不足分を追加で支払う必要があります。
「10時間分・30,000円」などと明記されていても、基本給が上がったり、残業代の計算へ入る手当が増えたりすると、同じ10時間分でも必要な残業代は高くなります。固定残業代が長期間変わっていない場合は、現在の基本給と手当で足りているかも確認してみてください。
比べる前に、残業時間の集計期間を確認する
給与や残業時間の締め日は、会社によって異なります。集計された残業代が当月に支払われる会社もあれば、翌月に支払われる会社もあります。
残業時間の集計期間と支給月を確認したうえで、同じ期間の法定時間外・深夜・法定休日の時間をツールへ入力してください。法定休日とは、法律上、少なくとも週に1日または4週間に4日必要とされる休日です。会社の休日すべてが法定休日になるわけではありません。
残業時間の切り下げにも注意
残業時間は、原則として1日ごとに1分単位で記録します。
日々の残業時間を15分や30分単位で切り下げてから合計する方法は認められていません。
一方、1か月分の残業時間を1分単位で合計したあと、その端数が30分未満なら切り捨て、30分以上なら1時間へ切り上げる処理は認められています。
たとえば、1分単位で合計した1か月の残業時間が10時間17分だった場合、月の合計を10時間として計算する処理は認められます。
しかし、日々の17分や14分などを切り捨てた結果、月の合計が8時間30分になるような処理は認められません。
また、30分未満の端数を毎月必ず切り捨てる一方で、30分以上になっても切り上げない処理も認められません。
切り上げは労働者にとって不利にならない処理ですが、実際の勤怠記録そのものは1分単位で残しておく必要があります。
金額が違っても、計算ミスとは限らない
同じ期間で比べても、ツールの結果と給与明細の金額が違う場合があります。
主な原因には、次のようなものがあります。
- 会社で使っている1か月の平均所定労働時間が違う
- 会社の勤務時間は過ぎていても、1日8時間・週40時間以内に収まる残業が含まれている
- 深夜労働(原則22時から翌朝5時)や法定休日労働がある
- 変形労働時間制が使われている
- 月単位で認められた端数処理が行われている
- 残業時間の集計期間や支給月が違う
「○円以内なら誤差」と一律には決められません。
少額でも毎月同じ原因で差が出ている可能性があります。反対に、大きな差があっても、残業時間の集計期間の取り違えや、法定時間内の残業を含めてしまっているだけかもしれません。
差があったら、資料をそろえて確認する
理由の分からない差が残った場合は、次の資料を確認します。
- 給与明細
- 雇用契約書や労働条件通知書
- 自分が確認できる就業規則・給与規定
- タイムカードなど、実際の勤務時間が分かる記録
- 残業時間の集計期間と支給月
これらの資料から、自分で計算方法を確認できることもあります。
社内へ確認できる場合は、給与担当者へ次のように質問してみる方法もあります。
- この手当は、残業代の計算に含まれていますか?
- この残業代は、いつからいつまでの勤務分ですか?
- 残業代の計算に使っている1か月の平均所定労働時間を教えてください。
最初から「計算が間違っています」と決めつけず、計算方法を確認する形で聞いた方が話を進めやすくなります。
問い合わせは、メールなど記録が残る方法がおすすめです。
未払いの残業代を請求できる期間には時効がある
2020年4月1日以降に支払期日が来る残業代は、法律上の時効が5年に延長されました。ただし、現在は経過措置により、当分の間は3年です。
残業代の計算へ入れるべき手当が入っていなかった場合も、不足分をさかのぼって請求できる期間に関わります。気になる点があれば、過去の給与明細や勤怠記録も早めに確認してみてください。
会社へ聞くのが不安なときは
会社の雰囲気や自分の立場によっては、給与担当者へ聞くだけでも不安に感じますよね。
自分だけでは計算方法を判断できない場合は、無料・匿名で利用できる厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」で相談できます。
この窓口へ相談しただけで、会社へ連絡が入るわけではありません。まずは、自分の考え方や確認方法が合っているかを相談してみてはいかがでしょうか。
労働基準監督署へ正式に申告し、調査や指導を求めることは、匿名相談とは別です。法律上、申告を理由とした不利益な取り扱いは禁止されていますが、事実関係によっては、会社が申告者を推測する可能性もあります。
申告を検討するときは、社内で働き続けることへの影響も含め、相談窓口で進め方を確認してから判断するのがおすすめです。
計算の誤りを伝えても説明や支払いがなく、そのことにモヤモヤしながら働き続けるのであれば、転職も選択肢のひとつです。
残業代を確認するときのチェックリスト
残業代が気になったら、次の順番で確認します。
- 給与明細にある手当を確認する
- 各手当が何を基準に支給されているか調べる
- 残業時間の締め日と支給月を確認する
- 同じ期間の勤怠記録をそろえる
- 会社が使っている1か月の平均所定労働時間を確認する
- 法定時間外・深夜・法定休日の時間を分ける
- 日ごとに残業時間が切り捨てられていないか確認する
- 時給計算ツールへ入力し、給与明細と比べる
- 理由の分からない差があれば、社内への問い合わせや外部相談を検討する
すべてを一度に調べるのが難しければ、まずは基本給だけで計算されていないか、給与明細にある手当がどのように扱われているかを見るところから始めてみてください。
