給与明細に「家族手当」「住宅手当」「資格手当」などがある方は、その手当が残業代の計算に入っているか確認したことはありますか?
残業代は、基本給だけで計算するとは限りません。毎月支払われる手当も、原則として計算に入ります。
ただし、法律では残業代の計算に入らない手当などが7種類定められています。
少しややこしいのが住宅手当です。住宅手当はこの7種類に含まれますが、同じ「住宅手当」でも、支給方法によって計算に入る場合と入らない場合があります。
手当の名前だけでは判断できません。
この記事では、手当の支給条件と金額の決まり方から、残業代の計算に入るかどうかを見分ける方法を解説します。
残業代の計算に入らない手当などは7種類
月給制の場合、まず次の式で1時間あたりの賃金を出します。
(基本給+残業代の計算に入る手当)÷ 1か月平均所定労働時間
法定時間外の残業代は、次のように計算します。
1時間あたりの賃金 × 1.25 × 法定時間外の残業時間
法律で定められている主な割増率は、次のとおりです。
| 働いた時間 | 割増率 |
|---|---|
| 1日8時間・週40時間を超えた法定時間外労働 | 25%以上 |
| 1か月60時間を超えた法定時間外労働 | 50%以上 |
| 22時から翌朝5時までの深夜労働 | 25%以上を追加 |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
深夜労働が法定時間外労働や法定休日労働と重なった場合は、深夜労働の割増率が追加されます。会社が、法律で定められた割合より高い割増率を設定している場合もあります。正確に確認したい場合は、給与規定などを確認してください。
1か月平均所定労働時間は会社によって異なります。分からない場合は、大まかな目安として160〜170時間程度で試算できます。この記事では、その中間にあたる165時間を使って計算します。
法律で残業代の計算に入らないものとして挙げられているのは、次の7種類です。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
これ以外の手当は、原則として残業代の計算に入ります。
ただし、この7種類は、手当の名前だけで判断するものではありません。実際にどのような条件で支給され、何を基準に金額が決まっているかを確認します。
参考:割増賃金を計算する際の基礎となる賃金は何か|厚生労働省
家族・通勤・別居・教育・住宅手当
家族手当
扶養家族の有無や人数に応じて支給額が決まる家族手当は、残業代の計算に入りません。
たとえば、次のような支給方法です。
- 配偶者がいる場合は月10,000円
- 扶養する子ども1人につき月5,000円
- 扶養家族が3人以上の場合は月20,000円
一方、家族の有無や人数に関係なく、全員へ一律に支給されるものは、名前が「家族手当」でも残業代の計算に入ります。
扶養家族の有無や人数によって、支給の有無や金額が変わるもの。
家族構成に関係なく、全社員へ一律に月10,000円を支給するもの。
通勤手当
実際の通勤費や通勤距離に応じて支給される通勤手当は、残業代の計算に入りません。
たとえば、次のような支給方法です。
- 電車やバスの定期代を支給
- 自宅から勤務先までの距離に応じて支給
- 実際に出勤した日数に応じて交通費を支給
一方、通勤距離や実際の費用に関係なく、全員へ一律に支給されるものは、残業代の計算に入ります。
通勤距離や実際にかかった交通費をもとに金額が決まるもの。
通勤距離や交通費に関係なく、全社員へ一律に月30,000円を支給するもの。
別居手当
仕事の都合で家族と離れて暮らすことになった人へ、別居に伴う負担を補うために支給される手当は、残業代の計算に入りません。
会社によっては、「単身赴任手当」など別の名前で支給されていることもあります。
その手当が、家族との別居に伴う負担を補うものであれば、別居手当に該当し、残業代の計算に入らないことがあります。
一方、家族との別居に関係なく、転勤した人全員へ支給される勤務地手当や転勤手当などは、残業代の計算に入ることがあります。
子女教育手当
子どもの教育にかかる費用や事情に応じて支給される子女教育手当は、残業代の計算に入りません。
たとえば、海外赴任中の子どもの学費や、特定の教育費を補うために支給されるものなどが考えられます。
一方、子どもの有無や教育にかかる事情と関係なく、一律に支給されている場合は、名前が「子女教育手当」でも残業代の計算に入ることがあります。
判断しにくい場合は、給与規定や支給条件を確認してください。
住宅手当
実際の家賃や住宅費に応じて金額が決まる住宅手当は、残業代の計算に入りません。
たとえば、次のような支給方法です。
- 家賃の10%を支給
- 住宅ローンの返済額に応じて支給
- 住宅費に応じて上限30,000円まで支給
一方、実際の住宅費に関係なく、「賃貸住宅に住んでいれば一律15,000円」などと定額で支給されるものは、残業代の計算に入ります。
厚生労働省は、「持ち家なら○円、賃貸住宅なら○円」というように、実際の住宅費に関係なく住宅の形態ごとに定額を支給するものは、残業代の計算に入ると説明しています。
会社によっては、地域、住宅形態、家族構成、支給上限など、複数の条件を組み合わせて金額を決めていることもあります。
このような制度は、一つの条件だけでは判断できません。給与規定に書かれた計算方法全体を確認する必要があります。
実際の家賃や住宅費に応じて、支給額が変わるもの。
実際の住宅費に関係なく、賃貸住宅に住む人へ一律に月15,000円を支給するもの。
臨時の賃金・1か月を超えて支払われる賃金
臨時に支払われた賃金
結婚、出産、病気、災害など、通常とは異なる臨時の事情によって支払われる賃金は、残業代の計算に入りません。
慶弔見舞金などは、支給方法によっては、そもそも労働の対価となる賃金ではなく、会社の福利厚生として支払われている場合もあります。
一方、毎月支払うことが決まっている手当を、会社の都合で一度にまとめて支払ったからといって、臨時に支払われた賃金になるわけではありません。
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、残業代の計算に入りません。
たとえば、半年ごとの業績に応じて支給される賞与などです。
ただし、「賞与」という名前なら必ず計算に入らないわけではありません。
参考:年俸制の場合には、何時間残業しても割増賃金はもらえないのですか|厚生労働省
手当名ではなく、支給条件を見る
7種類の説明をまとめると、手当を見分けるときに大切なのは名前ではなく、何を理由に、どのように金額が決まっているかです。
個人の事情や実際の費用で金額が変わる
次のような事情や費用に応じて金額が決まる手当は、7種類に当てはまり、残業代の計算に入らないことがあります。
- 扶養家族の人数
- 実際の通勤費や通勤距離
- 家賃や住宅費
- 家族との別居
- 子どもの教育事情
ただし、7種類と同じ名前を付けただけでも、一律に支給されている手当は、残業代の計算に入る場合があります。
仕事・役職・資格に対して支払われる
仕事の内容、役職、資格、技能などに対して毎月支払われる手当は、原則として残業代の計算に入ります。
たとえば、次のような手当です。
- 資格手当
- 役職手当
- 職務手当
- 技能・技術手当
- 危険手当
- 特殊勤務手当
- 現場手当
- 勤務地手当
会社独自の名前が付いていても、仕事をすることへの対価として毎月支払われているなら、残業代の計算に入るのが原則です。
複数の意味が混ざった手当と実費精算
複数の意味が混ざった手当は内訳を確認する
離島手当、海外赴任手当、転勤手当などは、一つの手当に複数の意味が含まれていることがあります。
たとえば、海外赴任手当の中に、次のようなものがまとめられている場合です。
- 海外で働くことへの手当
- 住宅費の補助
- 子どもの教育費
- 家族との別居費用
- 渡航費
「海外赴任手当」という名前だけでは、残業代の計算に入るか判断できません。
手当の内訳や支給条件を確認し、仕事への対価なのか、実際の費用や個人の事情を補うものなのかを分けて考えます。
実費精算は残業代の計算に入らない
仕事で実際に使った金額を精算してもらうものは、通常、残業代の計算に入りません。
これは「残業代の計算に入らない7種類の手当だから」ではなく、そもそも仕事の対価として支払われる賃金ではなく、立て替えた費用などを返してもらうものだからです。
一方、実際に使った金額に関係なく定額で支給され、使わなかった分も返す必要がない手当は、残業代の計算に入ることがあります。
実費精算になりやすいものには、次のようなものがあります。
- 出張時の交通費や宿泊費
- 会社の備品を立て替えて購入した代金
- 領収書を提出して精算する費用
- 合理的な方法で計算された在宅勤務中の通信費や電気代
たとえば、在宅勤務中に仕事で使った通信費や電気代を合理的に計算し、その金額を精算する場合は、実費の精算として扱われます。
しかし、「在宅勤務手当として毎月5,000円」のように、実際の費用に関係なく定額で支給され、使わなかった分を返す必要もない場合は、賃金として残業代の計算に入ります。
同じ「在宅勤務手当」でも、支給方法によって扱いが変わります。
会社独自の手当は、ここを確認する
給与明細に見慣れない手当がある場合は、給与規定や雇用契約書などで、次の点を確認します。
- 何のために支払われる手当か
- 毎月支払われるものか
- 金額は何を基準に決まるか
- 実際にかかった費用で金額が変わるか
- 使わなかった分を返す必要があるか
- 仕事の内容、役職、資格、勤務地などへの対価か
- 固定残業代として支払うと書かれていないか
特に確認したいのは、金額の決まり方です。
「住宅手当」と書かれているだけでは判断できません。実際の家賃に応じて金額が変わるのか、対象者へ一律に支給されるのかによって、残業代の計算に入るかどうかが変わります。
給与明細から、どの手当まで入っているか逆算する
給与明細で法定時間外の残業代が単独で表示され、対応する残業時間も分かる場合は、会社が残業代の計算に使った金額をある程度逆算できます。
使う式は次のとおりです。
=(残業代(円) ÷ 残業時間(時間) ÷ 割増率)× 1か月平均所定労働時間(時間)
たとえば、給与明細と勤怠記録が次の内容だったとします。
- ・法定時間外の残業代:41,667円
- ・法定時間外の残業時間:20時間
- ・割増率:1.25
- ・1か月平均所定労働時間:165時間
※ここで使う165時間は、説明のための仮の数字です。実際に会社が残業代の計算に使っている1か月平均所定労働時間とは異なる場合があります。正確に確認したい場合は、給与規定や会社の給与担当者などへ確認してください。
この条件で逆算すると、次のようになります。
(41,667円 ÷ 20時間 ÷ 1.25)× 165時間 = 約275,000円
給与明細が次の内容だった場合、
- ・基本給:250,000円
- ・資格手当:10,000円
- ・住宅手当:15,000円
基本給と2つの手当の合計は、275,000円です。
250,000円+10,000円+15,000円 = 275,000円
逆算した金額とほぼ一致するため、この例では、資格手当と住宅手当の両方が残業代の計算に入っている可能性が高いと考えられます。
逆算した金額が約250,000円なら基本給だけ、約260,000円なら基本給と資格手当だけというように、金額から計算に入っている手当を絞り込めます。
逆算しにくい場合もある
次のような場合は、給与明細の金額だけでは正確に逆算できません。
- 法定時間内の残業が混ざっている
- 深夜労働や法定休日労働の金額が一緒になっている
- 固定残業代が支給されている
- 会社が法律より高い割増率を設定している
- 変形労働時間制を採用している
- 残業時間の集計期間と支給月がずれている
- 会社が使っている1か月平均所定労働時間が分からない
- 月単位で認められた端数処理が行われている
そのため、逆算した金額は「会社がどの手当を計算に入れているのか」を考えるための目安として使います。
時給計算ツールでは、基本給と、残業代の計算に入る手当を分けて入力できます。手当を入れた場合と入れなかった場合で、残業代がどれくらい変わるか確認したい方は試してみてください。
会社の残業代が合っているか確認する流れは、別記事の「残業代の計算、合ってる?給与明細から確認する方法」で紹介しています。
分からない場合は、会社へ問い合わせる
給与規定を自分で確認できる場合は、手当の支給条件を探してみます。
一方、給与担当者へ気軽に問い合わせられる会社なら、自分であれこれ調べるより、最初から計算方法を聞いた方が早いこともあります。
質問するときは、次のような聞き方ができます。
給与の確認をしているのですが、この手当は、残業代の1時間あたりの金額を計算するときに含まれていますか?
計算に入っていない場合は、理由も確認できます。
含まれていない場合は、残業代の計算に入らない7種類のうち、どれに当たるか教えてもらえますか?
ライフプランを考えるために、自分の給与の計算方法を確認しています。
などと添えると納得してもらいやすいかもしれません。
労働組合がある会社では、組合へ相談する方法もあります。ただし、相談内容の扱いや会社へ共有される範囲は組合によって異なるため、気になる場合は先に確認してください。
会社へ聞きにくい場合は、給与規定や雇用契約書から自分で支給条件を調べてみましょう。
それでも判断できなければ、厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」など、匿名で利用できる窓口へ相談できます。
迷ったら、この順番で確認する
- 給与規定などで、支給条件と金額の決まり方を確認する
- 残業代と残業時間が分かれていれば、計算に使った金額を逆算する
- 計算が複雑な場合は、時給計算ツールで手当の有無を比べる
- 理由の分からない差が残る場合は、給与担当者や相談窓口へ確認する
