生活防衛資金は「生活費の6か月分から1年分」が目安といわれます。でも、傷病手当金や配偶者の給与、会社独自の保障など、休職中に入るお金は家庭によって違います。毎月の支出も違うため、必要な金額は同じではありません。
共働き世帯を例に、休む期間と毎月の支出を変えながら、本当に必要になる備えを比べてみます。
休職はどれくらい身近?
厚生労働省の「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」では、過去1年間にメンタルヘルス不調で1か月以上休業した人がいた事業所は10.2%でした。
休職の理由は、メンタルヘルス不調だけではありません。全国健康保険協会(協会けんぽ)の「現金給付受給者状況調査(令和6年度)」では、傷病手当金を受給した人の原因は次の順でした。
- 精神疾患など
- 39.15%
- がんなど
- 14.49%
- 腰痛や関節疾患など
- 8.76%
- 心臓病や脳血管疾患など
- 7.32%
- 骨折・けが・中毒など
- 6.54%
同じ調査で、2024年10月に傷病手当金を受給していた人は、支給開始からその時点までの期間が平均171.75日、約5.7か月でした。これは、一人ひとりの受給が終わるまでを調べた平均ではありません。その時点で受給中の人が、これまで何日間受け取っているかを集計した数字です。
30日以下の人が24.96%と最も多い一方、長く受給している人もいます。そこで、まずは比較の目安として6か月の休職を試します。
平均値を使った共働き世帯で試算
厚生労働省の「2025年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の2025年6月分の所定内給与額は、男性が平均37万3,400円、女性が平均28万5,900円でした。所定内給与額には、残業代や賞与は含まれていません。
また、総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2025年平均結果」では、二人以上の勤労者世帯の消費支出は月平均346,297円でした。この世帯で働いている人は平均1.81人です。
異なる公的統計の平均値を組み合わせた、比較用の仮想ケースとして試算します。実在する「平均的な一家庭」を表すものではありません。
- 夫の給与月37.5万円
手取り30万円 - 妻の給与月28.5万円
手取り22万円 - 生活費月35万円
- 休職する人夫
- 有給休暇20日
- 医療・療養費月1万円
- 賞与・現在の貯金どちらも0円
有給休暇20日は、休職直後の約1か月分を給与ありとして反映しています。会社独自の休職中の給与保障などがある場合は、今回より少ない備えで済むこともあります。
この記事では、通院や薬、会社へ提出する診断書など、療養中に増える支出を「医療・療養費」と呼びます。シミュレーションでは、差額ベッド代や通院交通費は含めていません。
ここからは、休職が始まってから毎月の収支がどう積み重なるかを「累積収支」で確認します。
累積収支とは
休職が始まってからの毎月の収支を、順番に足したものです。ここでは現在の貯金を0円としているため、最も大きなマイナス額が、その期間を乗り切るために必要な備えになります。
収入条件を固定したまま、支出と休職期間を変えてシミュレーションしてみます。生活費35万円で6か月休んだ場合から始め、本人の給与収入が2年間戻らなかったら、生活費が50万円だったら、さらに医療・療養費が長引いたらどうなるのか。必要な備えがどこまで増えるのかを、順番に見ていきます。
6か月休職まずは基本条件
収入が2年間戻らない期間を長くする
6か月・2年間毎月の支出を増やす
医療費も長く続くかなり厳しい条件
生活費35万円で6か月休職した場合
医療・療養費は、私が過去に精神疾患で休職したとき、通院や薬などにかかった金額が平均すると月1万円ほどだったことから設定しました。
この条件では、休職中も傷病手当金と妻の収入で支出をまかなえます。6か月間の累積収支はマイナスになりませんでした。
生活費35万円で本人の収入が2年間戻らない場合
がんと診断されたからといって、長期間仕事を休む人ばかりではありません。国立がん研究センターの「令和5年度 患者体験調査」では、診断時に仕事をしていた人のうち、27.4%は治療による休職・休業も退職・廃業も経験していませんでした。
また、休職・休業はしたものの退職・廃業はしなかった人のうち、80.3%は少なくとも一度、仕事に復帰しています。治療後に仕事へ戻る人は、思っているより多いことがわかります。
「少なくとも一度」の復帰であり、復帰までの期間や、その後も同じ働き方を続けられたかを示す数字ではありません。
一方で、通院や体調、働き方への影響が長引き、給与収入がなかなか戻らない人もいます。そこで、備えがより多く必要になるケースとして、本人の給与収入が2年間戻らなかった場合を試算します。
最も資金が減る復職直前でも、累積収支はマイナス23万円でした。生活費35万円の1か月分より少ない金額です。
傷病手当金の支給期間は通算1年6か月です。その間に復職できなければ、収入がない期間が生じる可能性があります。また、会社へ在籍したまま休職できる期間は就業規則などによって異なります。ここでは、本人の収入が長期間戻らない場合の備えを見るため、2年後に復職する前提で試算しています。
生活費50万円で休職した場合
次に、ほかの条件はそのままに、生活費だけを50万円へ増やします。通常時の手取りは夫婦で月52万円なので、休職前の黒字は月2万円です。
6か月休職した場合
休職直後から毎月の収支はマイナスになり、復職直前の累積収支はマイナス55万円でした。傷病手当金と妻の収入があるため、必要額は生活費の約1.1か月分です。
本人の収入が2年間戻らない場合
復職直前の累積収支はマイナス383万円。生活費の約7.7か月分です。
生活費35万円のケースとの差は360万円でした。毎月15万円の支出差が24か月続くため、そのまま15万円×24か月=360万円の差になります。収入が同じでも、休職中の支出によって必要な備えは大きく変わります。
生活費50万円で医療・療養費が長く続いた場合
最後に、生活費50万円・本人の収入が2年間戻らない条件へ、医療費が大きくかかった場合の悲観シナリオを加えます。
24か月のうち1か月おきに、高額療養費の自己負担上限へ達する設定です。それ以外の月も医療・療養費が1万円かかり、復職後を含むシミュレーション最終月まで続くものとします。差額ベッド代や通院交通費は含みません。
復職直前の累積収支はマイナス452万円でした。復職後も医療費が続くため、その後も右肩下がりとなり、シミュレーション最終月にマイナス467万円まで減ります。必要額は生活費の約9.3か月分です。
実際には起こりにくい厳しい条件ですが、医療費が長引いた場合の上限寄りの例として確認できます。
必要額を決めるのは、休職中の収入と支出の差
今回の試算では、生活費35万円の世帯なら6か月休んでも追加の備えは必要ありませんでした。一方、生活費50万円の世帯では、同じ6か月でも55万円が必要になりました。
結果を大きく分けたのは、共働きかどうかだけではありません。休職中に入る傷病手当金や家族の収入に対して、毎月いくら使うかです。
休職中の収入より生活費が低ければ、長く休んでも貯金を大きく減らさずに済む場合があります。一方、普段は黒字の家計でも、休職中の収入を生活費が上回れば、その差が毎月積み重なります。
- 配偶者の収入も下がる場合は、必要額が今回より増えることがあります。
- 自営業やフリーランスなど、傷病手当金の対象にならない人は、別の条件で考える必要があります。
「生活費の6か月分」「1年分」と一律に考えるより、休職中に入るお金と、その間も必要な支出の差を確認する方が、自分の家庭に必要な生活防衛資金を考えやすくなります。
差額ベッド代や通院交通費、会社独自の保障なども含めて、「自分の場合はいくら必要か」を実際の収入と支出で確かめてみてください。
